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『不便さを金で買う路線』・城北線という選択肢。

 久々の旅行記事です。今回は偉大なるローカル都市鉄道「城北線」に乗って『ぽちフェス』に参戦してきました。その往路と会場の記録のはずだったのですが、『ぽちフェス』の話は一切出てきません。


駅名標は親会社JR東海のものをアレンジした独自仕様だ

 名古屋には、城北線、というローカル線がある。その名の通り、名古屋『城』の『北』を走る路線である。三大都市圏に挙げられつつも『巨大な田舎』の名をほしいままにしている名古屋市を抱く愛知県において、武豊線亡きあとの最後の非電化路線(※)として栄誉ある地位を占めている鉄道路線である。

 ※ここに注をつけたのは、『ガイドウェイバス』なる奇っ怪きわまる交通が一応大曽根〜小幡緑地間を走っており、同路線が一応非電化で存在するとの指摘を避けるためである。

 軽く情報をまとめておこう。城北線、正式には「JR東海交通事業城北線」は、JR東海道本線の枇杷島駅から同じくJRの中央本線の勝川駅とを結ぶ、全長10キロ足らずの鉄道路線である。途中の比良・小田井の両駅は名古屋市内に立地しており、沿線には大型商業施設が展開しているなど、大都市近郊路線としてのポテンシャルを存分に感じさせる路線である。にもかかわらず、列車は26本/日しかない。つまり、概ねラッシュ時間を除くと1時間に1本しか走っていないのである。

あまりに本数僅少な時刻表
土休日なので複数本ある時間の列車の大多数は運休である

 しかし、城北線を偉大なるローカル線都市鉄道たらしめている点は走っている地域の問題だけではない。そのあまりに立派な設備と、流転の半生がもたらす空白が大きな部分を占めている。城北線の前身となる「国鉄瀬戸線」は1960年代、旧国鉄が名古屋駅を迂回する貨物のバイパス路線として建設を進めたものだった、しかし、折からの累積赤字増大の中で新線建設は凍結され、完成間近で工事はあえなく中止となった。
その後激動の民営化を迎える中で、JRによって旅客化が目指され子会社が運営するという形で現在に至るも、建設費償還のためのやたら高額な運賃と、他公共交通機関との連携が全く無視された駅の立地と、バリアフリーへの配慮が欠落した構造など、随所に間に合わせの色がにじみ出た旅客輸送が行われており、あらゆる点で不便さを享受することができる。

 そんな城北線の魅力はどこからくるのか?というのは、至極真っ当な問いだと言えよう。筆者の考える魅力は『不便さを金で買う路線』といった、愛すべき風景にあると考える。
不便すぎる。だが、それがいい。
 少しの旅行にも非日常性を求める旅行者たちにとり、こうした不便さは旅のスパイスとして大歓迎なのではないだろうか…と。
といったふうにここまで御託を並べてきたが、早速乗車録部分に移っていこう。 

 今回は名古屋市内の比良駅から乗車していく。ただし、名古屋市内と嘯いているが、走っているところは名古屋市西区比良というところ。名古屋市としては最も外側に位置するエリアの一つで、例えるなら大阪の平野や鶴見がそうであるように、昭和の大合併を機に名古屋に編入された経緯をもつ地域で、歴史的には名古屋とは別個の風土をもっている。
2面1線の対向式ホームは駅北側は国道302号に隣接、南側からは庄内川と洗ぜきを眺めることができ、朝の散歩コースにはちょうどいいかもしれない。何らかの作品の舞台になったことがあるとも聞いたことがある。

やってきた単行の気動車
高速道路に沿って気動車が走るのは他にない景観

 
 やってきたのはJR東海のかつての標準型気動車、キハ11である。窓上の『TKJ』の文字と、側面の太い橙色の帯が輝いているが、当線3代目の専属車両で、これは現在運用されているキハ11-301号車・キハ11-302号車はいずれもJRから譲渡されたもので、3代目車両に当たる。
 列車は私ともう1人の乗客を乗せると、速やかに発車した。エンジンの音は朝の空気を吸って快調そうだ。しかし、他のローカル線と決定的に異なるのはガタンゴトンというフランジの音がほとんどしない点だ。同線は上に示した背景により大重量の貨物列車が走行することを前提に高い規格で線路が敷設されているため、滑るような走行音と、駆動するエンジンサウンドを満喫するための路線でもある。 

車内の様子 春の暖かな日差しがまぶしい 

 進行方向右手に高速道路ごしに巨大商業施設が見えてくると、まもなく小田井に到着する。小田井は地上5階建て近い巨大な高架駅である。こうした構造になっているのは、小田井発車後に名鉄犬山線をまたぎ越すためだ。此方の列車には片手で数えるほどしか乗客が乗っていないが、見下ろす名鉄線の列車には立ち席の姿も見えるほどだ。偉大なるローカル都市鉄道の実力は、こんなところからも現れてくる。

 続いて、尾張星の宮に到着する。開業当初の終着駅だった当駅では、他の城北線の駅と異なりそれなりの駅前ロータリーが準備されている。井原鉄道井原線や、土佐くろしお鉄道のごめん・なはり線あたりの風景を思い出す風景だ。数少ない通学需要も当駅にはあるようで、学生の乗降車もみられた。都市の隙間を塗って走る城北線だが、確かに地域の足としての役割も果たしていることが見て取れる。

「降車証明書」 券番2261はこれまでの降車客数だろうか?

 比良駅を出てわずか10分の空中散歩を経て、終着の枇杷島駅の1・2番線に滑り込んでいく。天下の東海道線を押しのけて若番を取っているのはこの路線くらいかもしれない。
降車時には車内で運賃を精算する。アトラクション料としてみれば安価な運賃390円を支払うと、JR東海交通事業発行の「降車証明書」が運転士氏より手渡される。城北線では整理券ワンマン方式を採っているのだが、ここからの東海道線では改札が完備されている都合上、精算を済ませていることの証明が何かしら必要なのだ。

橙色の窓帯が際立つキハ11-302号車
城北線の先代車両から受け継いだアイデンティティだ

 乗車時間10分。あっという間の小旅行だったが、その一瞬でも大いに大名古屋の風景を楽しむことができた。本稿ではあえて車窓の風景を載せていない。これは、読者諸君の楽しみを潰さないためである。

日常の中の非日常を味わいたい読者諸兄。不便さを金で買う体験は、どうだろうか。

はてさて、今回もお読みいただきありがとうございました。
次回もお読みくださると幸いです。

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